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横浜地方裁判所 昭和48年(行ウ)27号 判決 1981年4月27日

原告 鈴木福蔵 外六名

被告 長野正義 外一名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

被告らは横須賀市に対し連帯して金三億〇一五九万九〇〇〇円及びこれに対する昭和四八年九月二六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立(被告横山和夫)

被告横山和夫に対する訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは肩書住所地に居住している横須賀市の住民である。

2  被告長野正義は昭和四七年当時横須賀市の市長の職にあり、地方自治法に基づき同市の行政事務を管理執行していたものであるが、昭和四八年七月九日同市長を退任した。

3(一)  被告横山和夫は、昭和四七年当時横須賀市の助役の職にあり、地方自治法に基づき市長を補佐していたもので、昭和四八年七月九日同助役を退任し、現在横須賀市の市長の職にあるものである。

(二)  被告横山は、後記のとおり、横須賀市が昭和三八年一一月一九日西武鉄道株式会社(以下「西武鉄道」という。)との間に取り交わした覚書に基づいて、学校施設の協力方法、形態、程度をめぐつて西武鉄道と折衝し、昭和四七年四月三日付協議書を作成するにあたり、横須賀市の実質的交渉責任者として、自己の判断で学校用地として取得すべき土地を現物の土地提供の形態でなく、金銭提供の形をとり、その金額も決定した。右協議の決定をなした対外責任者は勿論当時の市長である被告長野であり、同人は協議書に調印したものであるが、被告横山は担当助役として横須賀市のため実質的に後記行為をなしたものであるから、被告長野と共同して右行為によつて生じた損害を賠償すべき責任を負うものである。

4(一)  西武鉄道は、昭和三八年六月三日横須賀港港湾管理者の長である横須賀市長に対し、同港内の同市馬堀一丁目ないし四丁目、三春町二丁目ないし四丁目、大津町一丁目及び二丁目並びに走水地先公有水面六四万六〇二〇・一九平方メートル(以下「馬堀海岸埋立地」という。)の埋立を申請し、同市長は昭和三九年一〇月三一日右埋立を免許した。そして右埋立事業について、横須賀市は、昭和三八年一一月一九日西武鉄道との間で、横須賀市が、右馬堀海岸埋立地の宅地開発にともない、将来児童生徒の増加を来した場合、西武鉄道は学校施設について横須賀市に協力する等の覚書を作成して、同市との間で協力契約を締結した。

(二)  西武鉄道は、右海岸を埋立のうえ、昭和四六年一月二三日横須賀市長に対し埋立地のうち住宅地造成総面積四三万七一二四平方メートルにつき宅地開発の許可申請をした。

(三)  ところで、これに先立ち横須賀市は、昭和四四年五月一五日から宅地開発指導基準を施行し(右指導基準は、昭和四六年五月一日廃止され、同年五月一日から開発指導要綱が施行されたが、同要綱附則3によると、要綱施行の際、事前審査完了又は事前審査を受付けたものについては、なお従前の例によるとして、昭和四六年五月以降も右指導基準が事実上施行されていた。以下「指導基準」という。)、将来の都市ビジヨンとして健康で住みよい五〇万都市の建設を目標とし、ともすれば無秩序になされようとする宅地造成工事について、住宅地造成事業者に対し強力にその履行を指導することとしていた(一条)。指導基準は、住宅地造成事業でその施行地区〇・三ヘクタール以上のものについて適用され(三条)、当該事業者は関係法令は勿論のこと、右基準を遵守し、右基準に適合するよう事業を施行しなければならないこととなつていた(二条)。そして指導基準第八条には学校用地として「事業者は、その施行面積が〇・三ヘクタール以上の場合は、施行地区内の宅地面積の三パーセントに相当する平坦な土地を市に無償で提供する。ただし、事業者の事情により土地の提供が困難であると市が認めたものに限り金額に換算して提供させることができる。」旨規定されている。

(四)  この規定は、既成市街地における学校用地その他の公共施設用地の確保が著しく困難なことに鑑み、一定規模以上の宅地造成を行う事業者に対して、宅地開発により莫大な利益を受ける受益の一部を学校施設用地として一定限度において提供を義務づけようとしたもので、用地提供を業者に負担させる実質的根拠は、究極的には地方自治法第二二四条、都市計画法第七五条等の受益者負担の思想に求められる。右規定の趣旨からすれば、あくまで用地取得が原則であつて例外的に住宅地造成事業者の事情により土地の提供が困難であると市が認めた場合に限り金銭に換算して提供させることができるに過ぎない。

(五)  ところで、西武鉄道の本件馬堀海岸埋立開発計画によると、予定されている住宅戸数約二四〇〇戸、人口にして約一万人、最終的には約八〇〇〇戸の戸数の人間が居住する一大市街地を構成することになつており、また横須賀市総合開発基本計画による「学校配置基準」によると対象人口が七〇〇〇人ないし一万人に対し一小学校を配置することになつており、しかもその目標の中には、小学校の敷地面積の確保、均衡ある学区の編成、適正な学校配置の整備等が強調されているのであるから、馬堀海岸埋立地に学校建設が必要なことは火を見るより明らかであつた。そもそも西武鉄道の馬堀海岸埋立地の開発行為については、神奈川県の開発審査会が「本件開発計画には、学校施設の建設計画がなく、しかも造成地の中に学校用地がない。」等の理由で問題があるとされ何回か継続審議に付され、その間開発許可がおりなかつたという経緯があり、事実、学校建設の必要がないといつていた横須賀市は、金銭解決した直後に結局、右埋立住宅地域の児童生徒を収容するため急遽別の地域に仮称「馬堀第二小学校」の建設を計画し、学校を建設したのであるから学校用地は必要であつた。また西武鉄道において右宅地開発につき特に学校用地の提供が困難であるという事情もなかつた。

以上のように、西武鉄道の右宅地開発行為について横須賀市は、当然同市が西武鉄道との間に締結した昭和三八年一一月一九日付覚書による契約及び指導基準の規定に基づいて西武鉄道から宅地開発総面積四三万七一二四平方メートルの三パーセントにあたる約一万三一一三平方メートルの土地の提供を受けるべきであつたのに、被告ら両名は右土地の提供を受けずに、昭和四七年四月三日右土地の提供を受ける代りに、当時の時価一平方メートル当り約三万三〇〇〇円、少くとも総額四億三二七二万九〇〇〇円は下まわらないのにもかかわらず、一平方メートル当り一万円、時価の約三分の一以下という著しく低廉な価格である金一億三一一三万円の金員を受領することとして、西武鉄道との間でその旨の協議契約を締結し、同年五月三一日に西武鉄道から右金員の納入を受けた。

5  被告らが西武鉄道と右4(五)の協議契約を締結した行為は地方自治法第二四二条第一項に規定する「違法な財産の処分」(以下「違法な財産処分」と略称する。)に該当する。すなわち

(一) 西武鉄道は、横須賀市に対して昭和三八年一一月一九日付覚書による契約に基づき学校施設の協力義務を負担しており、右協力義務の内容程度は指導基準が施行された段階で具体化され、横須賀市は宅地面積四三万七一二四平方メートルの三パーセントにあたる約一万三一一三平方メートルの平坦な学校用地の提供もしくは、もし用地の提供が困難であると横須賀市が認めた場合に限り金銭の提供、しかもそれは用地の時価に相当する適正価格の金銭の提供をさせる権利を有することになつたのであるが、被告らは西武鉄道から右学校用地の提供を受けずに、右用地に代え、時価の三分の一の金一億三一一三万円の金員の提供を受けることによつて西武鉄道に対する横須賀市の権利を放棄する一種の権利処分(財産処分)を行つた。

(二) 被告らの右処分行為は、明らかに指導基準第八条に違反する違法なものである。すなわち、右指導基準は、第一条の制定目的にもうたわれているように、業者の宅地開発行為に対する横須賀市の行政指導の事務処理上の基準及び方法を定めた「行政規則」である。そしてこの指導基準は、業者を一方的に拘束する(対外的)法的拘束力はないが、行政機関内部の規則規範としては機能するから、当然内部的には当該職員の行為を拘束する対内的拘束力はある。従つて、指導基準に違反する行為は、当然違法となる。

(三) 更に、「行政行為の公平平等適用の原則」からすれば、行政事務の管理執行は、すべてこれを公平平等に適用し処理しなければならない。指導基準第八条は、あくまで土地の無償提供を原則としており、土地の提供が困難である場合に限つてのみ金銭に換算して提供させることができる。しかも、行政行為の公平平等適用の原則からすれば、この金銭換算は当該土地と等価額でなければならないのは当然である。もし、当該土地と等価換算でなければ、土地提供の場合と金銭提供の場合とで、対業者間に著しく不公平な事務処理の結果が生じることになり、明らかに公平平等適用の原則に違反することになる。

従つて、仮りに金銭を提供させる場合でも、その額はあくまでも当該土地の時価相当の適正価格に換算したものでなければならない。しかるに被告らは、当該土地の約三分の一という著しい低廉な価格で処理したものであり、不公平、不平等な行政処理であつて違法である。

(四) また地方自治法第九六条第一項第六号、第二三七条第二項の規定によると、地方自治体の財産上の損失及び特定の利益のため、地方自治体の財政が歪められることを防止するため、普通地方公共団体の財産は適正な対価なくして譲渡又は貸しつけることが禁止され、例外的に条例又は議会の議決があるときにのみこれが許されるが、本件においては右条例又は議決もないのに前記のとおり時価の約三分の一以下の価格で金銭処分をしたもので、右条項ないしはその立法精神に反する違法なものである。

(五) また、被告らの前記財産処分行為は、横須賀市民から信託を受けた市の財産管理委任の本旨に違反し、地方財政法第八条、民法第六四四条に規定する善良なる管理者の注意をもつて委任事務を処理する義務に違反する違法なものである。

(1) そもそも横須賀市が西武鉄道に対して、学校施設の協力を求めるか否か、又どの程度の協力をいつどういう形で求めるかについては、被告らの全く自由な恣意的独断に任されているというものではなく、覚書による契約が締結され、指導基準が設けられている以上、その制定目的の趣旨からして合理的な特段の事情がない限り、被告らはこの指導基準に従つて、行政行為ないしは行政指導をしなければならないことは当然である。

従つて、一歩譲つて仮りに被告らに自由裁量の余地があるとしても、そこには一定の限界があり、指導基準が設けられている以上、この指導基準の制定趣旨に全く相反する様な行為は許されない。

(2) 周知のとおり、最近の宅地需要の増大は、民間宅地造成事業の激増を招き、これを放置すれば無秩序な土地の乱開発は勿論のこと、大企業による土地の買い占めを招弊し、その結果土地の効率的な計画的利用は望めず、公共施設ないし公共用地の整備ないし取得も著しく困難になる。そして本件の場合には現に学校用地が必要であり、西武鉄道も右用地提供が困難でもなかつたのであるから指導基準第八条に従い、西武鉄道から用地の提供を受け、これを維持確保することこそ市民から市政の信託を受けた被告らに課せられた財産管理の義務である。しかるに、被告らは、右用地提供の原則に違反して金員納付を受け、しかも著しく低廉な価格であつたのであるから、明らかに被告らに認められた裁量権を著しく踰越するもので、市民から信託委任を受けた財産管理の本旨に違反する違法なものである。

(六) また横須賀市財産条例第九条によると、「公有財産の取得、交換、貸付け及び処分の価格については横須賀市財産評価委員会で審議する。」旨規定されているが、前記財産処分については右委員会の審議がなされておらず、この点についても違法である。

6  被告ら両名が指導基準第八条に違反して昭和四七年四月三日西武鉄道との間に金一億三一一三万円の納付を内容とする協議契約を締結した行為は、「違法な契約の締結」に該当する。すなわち

(一) 被告らが昭和四七年四月三日西武鉄道との間に締結した協議契約は、普通地方公共団体である横須賀市を一方の当事者とし、昭和三八年一一月一九日に締結された覚書による契約に基づき西武鉄道の学校施設協力義務の履行を内容として、西武鉄道に金銭支払の義務を課するところのそれ自体権利義務の設定変更その他の法的効果をともなう契約行為であり全く法的効果も生じない単純な事実行為としての純粋な行政指導とは異なり一種の公法上の契約であり、地方自治法第二四二条第一項の「契約の締結」に該当する。

(二) そして、右契約の締結が指導基準第八条に違反し、かつ行政行為の公平平等適用の原則に違反し、違法であること前述のとおりである。

7  また被告らの前記4(五)の行為は「違法な公金の賦課・徴収・財産管理を怠る行為」にも該当する。

(一) すなわち、「公金」とは、法令その他法規上、当該地方公共団体又はその機関の管理に属しうる金銭給付を目的とする債権、現金、有価証券などをいうもの、金銭の徴収とは、地方公共団体の歳入を調定し、それを納入させる行為であるが、前述のとおり、西武鉄道は、横須賀市に対して昭和三八年一一月一九日付の覚書により学校施設の協力義務を負担しており、右協力義務の内容程度は右覚書による契約締結の段階では、特定されていないが、指導基準が施行された段階では、協力義務が具体化され、原則として宅地面積の〇・三パーセントの学校用地の提供もしくは、もし用地の提供が困難であると横須賀市が認めた場合に限り金銭の提供、しかもそれは、用地の時価に相当する適正価格の金銭の提供ということに特定具体化されているのである。右適正価格は前示のとおり約四億三二七二万九〇〇〇円であるから、西武鉄道に対し右金額を賦課すべきであつたし、右金銭の賦課は、横須賀市が指導基準を施行した昭和四四年五月一五日以降被告ら両名が西武鉄道と交渉していくらでも賦課することが可能であり、かつまた賦課すべきことを横須賀市議会議員から要請されていたのにこれを一切無視して賦課することを怠つたものである。従つて、地方公共団体又はその機関の管理に属する金銭給付を目的とする債権すなわち公金の賦課、徴収を怠つている場合に該当するといえる。

更に被告ら両名が、指導基準第八条に基づき西武鉄道に対して用地提供の交渉をして、これを提供させることができたのにこれを怠り提供を受けなかつた行為は、「財産の管理を怠る行為」に該当する。

(二) そして被告らの行為が指導基準第八条に違反し、かつ行政行為の公平平等適用の原則に違反し違法であること前述のとおりである。

従つて、被告ら両名の行為は「違法な公金の賦課徴収・財産の管理を怠る事実」に該当する。

8  被告らは、右違法な財産処分、契約の締結、公金の賦課・徴収・財産管理を怠る行為により、横須賀市に対し西武鉄道より提供を受けるべき土地の時価と現実に納入された金額との差額金三億〇一五九万九〇〇〇円の損害を与えた。

9(一)  原告らは、右事実を、被告長野が昭和四七年一二月一五日横須賀市議会「昭和四七年第四回定例会議」に、昭和四七年度横須賀市一般会計補正予算のうちに一般寄附金の名目で西武鉄道から納入された本件金員が計上されていたことから知りえた。

そこで、原告らは右金員受領行為が違法不当なものと判断し、市民感情として到底是認できず、昭和四八年七月六日横須賀市の監査委員に対し、被告ら両名は、横須賀市に対し少くとも金三億〇一五九万九〇〇〇円の損害を与えたとして、地方自治法第二四二条第一項に基づき、その損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求した。これに対し、横須賀市監査委員は、右請求は法定要件を具備しているものと認めて、これを受理したが、同年七月三〇日付で請求は理由がない旨決定し、そのころ原告らに対し通知をした。

(二)  ところで、地方自治法第二四二条第二項は「住民監査請求は、当該行為のあつた日、又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」旨規定し、右監査請求が前述違法な財産処分及び違法な契約の締結の日(昭和四七年四月三日)から一年以上を経過しているが、もともと右一年間という法定期間は「監査請求期間」(なお「怠る事実」に係る請求については右期間の制限はない。)であつて、裁判所への「出訴期間」とは異なり、従つて「正当理由」の解釈・判断は、行政機関である監査委員の権限事項に属するものであつて、監査委員が所定の法定要件を具備し、正当な理由があると判断して、適法な監査請求としてこれを受理した以上、住民訴訟における監査請求前置主義の法定要件は具備しているものと解すべきである。

10  よつて、原告らは被告らに対し地方自治法第二四二条の二第一項四号の規定に基づき横須賀市に代位して、損害賠償として連帯して横須賀市に金三億〇一五九万九〇〇〇円及びこれに対する履行期後である昭和四八年九月二六日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告横山の本案前の申立の理由

原告らが昭和四八年七月六日に横須賀市監査委員に対し求めた監査請求は、「市長は土地提供の困難性がないにもかかわらず用地の確保をしないばかりか、昭和四七年四月三日学校用地の協力費の名目で一平方メートル当り一万円という低額な割合で一億三〇〇〇万円の金銭提供を受けた。昭和四六年当時の右土地売買価格は一平方メートル当り約三万円であり、従つて市長は時価の約三分の一以下という低額で金銭解決を図つたばかりでなく、更に昭和四七年一二月右金銭解決した土地のうちから青果市場の代替地として約六五〇〇平方メートルの土地を一平方メートル三・三万円という市が前記金銭解決した約三・三倍の価格でもつて西武鉄道から購入した。これは明らかに市財産に損害を与えた不当な財産処分であるばかりでなく、更に市財産条例第九条が要求する市財産評価委員会の審議にも付されていない違法なものである。」というのであり、横須賀市長について横須賀市長のした金一億三〇〇〇万円の金銭受領行為是正措置を横須賀市監査委員に求めたものであり、横須賀市長と横須賀市助役について両名のした行為の是正措置を求めたものではなかつた。

右のとおり、被告横山については監査請求を経ていないのであるから、本訴請求のうち被告横山に対する訴は不適法な訴として却下されるべきである。

三  被告らの請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2(一)  同3(一)の事実は認める。ただし、被告横山が横須賀市の助役の職を退任したのは昭和四八年四月五日である。

(二)  同3(二)の事実のうち、被告横山が昭和四七年当時から助役の職を退くまで、同市の助役であつた訴外堀内正喜とともに被告長野の開発行政事務の管理執行を、単独で或いは他の助役とともに補佐したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3(一)  同4(一)ないし(三)の事実は認める。

(二)  同4(四)の主張は認める。

(三)  同4(五)の事実のうち、原告ら主張の各日時に、土地の提供を受けずに、主張の如く金員の受領することとして、金一億三一一三万円の納入を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同5ないし8の主張は争う。

5(一)  同9(一)の事実は認める。

(二)  同9(二)の主張は争う。

6  同10の主張は争う。

四  被告らの主張

1  (事実関係)

(一) 西武鉄道が昭和三八年六月三日、横須賀市長に対し馬堀海岸埋立申請をしたのは、住宅用地、商業用地、準工業用地並びに護岸敷、道路敷、下水敷、公園用地、下水道施設用地及び船揚場敷に供する目的であつた。ところで、近年大都市近辺の市町村の宅地化が急速に進むにしたがい、大都市近辺の市町村は住民増加に伴う経費負担が問題となつたが、一方市町村が、宅地開発を許可するに当つて、開発事業者に対し財産的給付を求め、これに応じない場合には許可せず、応じた場合にのみ許可するとする法律上の根拠もなかつた。そこで市町村は開発行為の許可申請が出されると、申請者に対しこの事情を説明し、公共施設の設置、公共用地の提供、学校施設の設置(用地提供を含む。)等について協力を求めるようになつた。そして横須賀市も西武鉄道に対し右のような協力要請をした結果、昭和三八年一一月一九日原告ら主張の如き内容の覚書をとり交すに至つたのである。

(二) 西武鉄道が右埋立免許を受けた当時は現行の都市計画法が制定されておらず、同法に基づく開発許可の必要もなかつたので、右埋立地のうち住宅用地として計画された部分はそのまま住宅用地となしうる筈であつた。ところが、右埋立工事中である昭和四四年六月一四日現行の都市計画法が施行され、昭和四五年六月いわゆる線引きの結果埋立工事完成後住宅用地と予定されていた部分が市街化調整区域になり、新たに都市計画法に基づく開発許可申請をすることが必要となり、西武鉄道は昭和四六年一月二三日にその許可申請をした。

(三) 横須賀市においては当時、指導基準が制定され、新しい開発許可申請があるとこれに基づいて指導することとなり、西武鉄道の右開発許可申請についても、同基準に基づく土地の提供を受けるかどうかが問題となつた。そして、横須賀市は従前の経過からして前記覚書と指導基準の双方を考慮し、かつ、当時横須賀市としては右開発区域内に学校を建設する必要がなかつたこと及び学校用地ということで土地の提供を受けると該土地は学校用地として使用するという使用制限があることから金銭で提供を受けることになり、指導基準第八条に基づいて提供を受けるべき地積に比例して一平方メートル当り金一万円の割合で算出した金一億三一一三万円を学校施設整備の協力金として寄附を受けることとなつた。

(四) なお、右の様な場合の土地の単価をいくらに見るべきかについては、土地の時価にするか、開発原価にするか等種々考えられるのであるが、金銭で寄附を受ける場合に、その額が高額であると、附近の地価をつり上げ、かつ、これが開発原価に繰入れられて開発土地の販売価格をつり上げる結果となるし、また開発原価とするとその算定が極めて困難であるなどの難点があつた。そこで横須賀市としては、地価つり上げの副作用をさける意味で比較的低価な一律算定単価を定めて、これに従うこととした。そしてこの単価は昭和四四年五月一五日から昭和四六年四月三〇日までは一平方メートル当り金一万円と定められていた(なお、昭和四六年五月一日から昭和四七年五月三一日までは金一万二〇〇〇円と定められた)ので、これに従つたものである。

2  原告らは、横須賀市が西武鉄道の開発行為を許可するに当り、昭和四七年四月三日、被告長野が学校用地の提供を受ける代りに金銭の提供を受ける旨の協議契約をしたことを、違法な財産処分であると主張するが、右は、次のとおり、地方自治法第二四二条に規定する財産の処分には当らない。

(一) 横須賀市は、前記1(一)の記載のとおり、急激な宅地化にともなう人口の増加により環境整備の経費の負担が問題となつたことから、なんら法令上の根拠もないままに、行政指導として住宅地造成業者に対し公共施設の整備について協力を求めていたが、指導基準は市の開発行為の許可事務を担当する職員が住宅地造成業者に対しその行政指導をするについての指針として、昭和四四年五月一五日当時の市の総合企画部の担当者から市長に対し、宅地造成に関する申請がなされた場合に、良好な環境の確保と公共用地の取得等のため右基準により指導してよいかどうかの伺いとして提出され、市長が伺いどおり処理してよいという旨決裁する形式で作られた行政指導の基準であり、一定の厳格な手続で制定、公布される条例や規則ではなく、また同様に横須賀市報で周知される訓令(所属の諸機関及び職員に対し指揮命令するもの)でもない。従つて、条例や規則のようになんらの法的拘束力、強制力もなく、単に事務担当者を拘束するにすぎないもので、横須賀市長を拘束するものではない。

右のとおりで、住宅地造成業者は指導基準によつて市の公共施設整備に協力すべき義務を負担するものではなく、住宅地造成業者が右基準による行政指導としての説得に応じ、任意に公共施設整備に協力し財産の提供を約してはじめて横須賀市の財産となるのであるから右の如き約定のない段階では財産ではなく、仮に行政指導により現実に提供を受けることとなつた財産の額が指導基準によつて理論上算出される額より少なかつたとしても財産を処分したことにはならない。

(二) また行政事務の管理執行が公平平等であるべきことは原告ら主張のとおりであるが、何が公平で何が平等であるかを常に画一的形式的に判断することはできないのである。横須賀市が西武鉄道の馬堀海岸埋立地の開発許可申請について行政指導をなした事情は前記1のとおりであるから、全く新たに開発許可申請がなされた場合と同様に指導基準に基づき行政指導を行うことは形式的には公平なようであつても実質的には不公平な結果となるのであつて、前記行政事務の管理執行が公平平等でないとする主張はあたらない。

(三) また仮に横須賀市が西武鉄道の右宅地開発について指導基準による行政指導をすべきであつたとしても、本件馬堀海岸埋立地については学校用地を必要としない地区の開発であつたところ、このような場合でも開発によつて児童生徒が増加して教育施設のための財政支出が増加することを理由に行政指導として開発業者に協力を求めるとして、常に土地の現物提供を受けることにするか、又は金銭提供により代えることとするか、また金銭提供を受ける場合であつても、その額を定めるに当つて、当該開発地の時価によるか、開発原価によるか、又は一定の一律金額によるかは、それぞれ一長一短があるから、その直接間接の影響を総合して政治的に決定すべき問題であつて、前述のとおり、学校用地の現物提供に代えて金銭給付をなさしめることとし、その金額について市において定める一律方式によつたとしてもなんら違法の問題は生じない。

3  原告らは昭和四七年四月三日横須賀市と西武鉄道との間でなされた協議を違法な契約の締結であると主張するが、右につき何ら違法性のないこと前記のとおりである。

4  また原告らは、「違法な公金の賦課・徴収・財産管理を怠る行為」に該当すると主張するが、前記のとおり、指導基準は住宅地造成業者と公共施設整備について協議をするための行政指導の指針にすぎず、協議が成立してはじめて横須賀市と開発業者との間に権利義務の関係が生じ、そして開発業者が右基準による行政指導としての説得に応じ任意に公共施設整備に協力し財産の提供を約して、はじめてその請求権が横須賀市の財産になるのである。右のように指導基準によつて直ちに開発業者の権利が制限されたり又は義務を負うに至るものではないから、右基準と協議の結果が合致しないことをもつて違法な公金の賦課・徴収・財産管理を怠つたということにはならない。

5  また、本件についての原告らの監査請求は監査請求期間後になされたものである。

すなわち、横須賀市が西武鉄道との間で金一億三一一三万円の納付等を内容とする協議書を作成したのは昭和四七年四月三日であるけれども、学校用地として土地の現物提供を受けず、金一億三一一三万円の給付を受けることの話合いがついたのは昭和四六年六月ごろのことであり、被告長野は昭和四六年六月二四日の横須賀市議会建設産業常任委員会においてこれを報告しており、同月二九日及び同年一〇月七日の横須賀市議会本会議において右給付に関して議員の質問があり詳細に答えているのである。原告らのうち鈴木福蔵、堀池満の両名はいずれも当時横須賀市議会議員の職にあつて右各本会議にいずれも出席し、右質疑応答を聞いているのである。右のように右協議については昭和四六年六月二九日以来横須賀市により明らかにされていたのであるから地方自治についての関心の深い原告らにおいても昭和四七年一二月一五日以前に知つていた筈であり、原告らとしては監査請求をしようと思えば右協議が成立した日より一年を経過した昭和四八年四月二日までの監査請求期間内に充分これをなし得たものである。

五  被告らの主張に対する認否及び反論

1(一)  被告らの主張1(一)の事実のうち、西武鉄道がその主張の各日時に、その主張の如き埋立申請をなし、右埋立申請に関してその主張の如き覚書による契約を締結したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同1(二)の事実は認める。

(三)  同1(三)の事実のうち、横須賀市が金一億三一一三万円の金員の提供をうけたことは認めるが、その余の主張は争う。

(四)  同1(四)の主張は争う。

2(一)  同2(一)の事実は否認し、その余の主張は争う。

法解釈上規則か否かは、単なる形式的な名称や制定形式、文例の如何によつて決せられるのではなくあくまでも地方公共団体の長が、その権限に属する事務に関し規則制定権に基づいて制定された広義における自治法規であるかどうかという実質的性格によつて決せられるべきものであり、その制定については、なんら特別の手続を要しない。

そして普通地方公共団体の長限りで処理しうる事務についても、普通地方公共団体の内部的な規則として、その事務処理上の基準ないし手続等の事務処理方法の内容を定めた以上、これら事務処理基準、手続、方法は普通地方公共団体の内部的規則すなわち一種の行政規則たる性質を有するものである。従つて内部的には事務処理担当者は勿論のこと制定者たる普通地方公共団体の長自身をも拘束するものである。

指導基準は、右の意味の行政規則であつて、開発業者など対外者を一方的に拘束する法的拘束力はないにしても、普通地方公共団体の内部においては、規則規範たる性質を有し行政機関を拘束するものである。

(二)  同2(二)及び(三)の主張は争う。

3  同3ないし4の主張は争う。

4  同5の事実のうち、原告らのうち鈴木福蔵、堀池満の両名が昭和四六、七年当時横須賀市議会議員の職にあつたこと、被告ら主張の各本会議に出席したこと及び質疑応答のあつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

西武鉄道と被告らが最終的に金銭受領についての合意をしたのは昭和四七年四月三日であり、それ以前は交渉過程にすぎないから、被告長野が建設産業常任委員会あるいは本会議でどのような報告、質疑応答をしようとそれは交渉過程における単なる見通し確認でしかない。

原告らが、横須賀市において最終的に金員給付を受ける旨の協議がなされたことを知つたのは、前述のとおり昭和四七年一二月一五日である。

第三証拠<省略>

理由

一  まず、職権をもつて本訴の適法要件について審査することとする。

原告らの本訴請求の要旨は、

1  西武鉄道は昭和三八年六月三日横須賀港湾管理者の長である横須賀市長に対し横須賀港内馬堀海岸の埋立申請をなし、昭和三九年一〇月三一日同市長より埋立免許を得たところ、その間昭和三八年一一月一九日横須賀市と、将来児童生徒が増加した場合、西武鉄道は学校施設について横須賀市に協力する旨の覚書を交わし、学校施設協力契約を締結した。

2  西武鉄道は、右埋立工事をなし、昭和四六年一月二三日右埋立地のうち宅地造成部分総面積四三万七一二四平方メートルについて横須賀市長に対し都市計画法に基づく宅地開発許可を申請した。

3  当時横須賀市には宅地開発について指導基準が定められ、その第八条には住宅地造成事業者は「その施行面積が〇・三ヘクタール以上の場合は、学校用地として施行地区内の宅地面積の三パーセントに相当する平坦な土地を市に無償で提供するものとする。ただし、事業者の事情により土地の提供が困難であると市が認めたものに限り金額に換算して提供させることができる。」旨定められていた。

4  ところで、西武鉄道が開発許可申請をした右土地には人口約一万人の住民が住む計画であり、学校用地が必要であるうえ、特に事業者である西武鉄道において土地の提供が困難であるとの事情もなかつたのであるから、当時横須賀市長であつた被告長野は、助役であつた被告横山をして右西武鉄道との交渉をなし、また、事実上の責任者としてすべてを決定していた右被告横山は直接の交渉者として、当然1の覚書による契約、3の指導基準に基づき西武鉄道から宅地総面積四三万七一二四平方メートルの三パーセントにあたる約一万三一一三平方メートルの土地(時価約金四億三二七二万九〇〇〇円相当)の提供を受けるべきであつたにもかかわらず、昭和四七年四月三日、指導基準第八条に基づく学校用地の換算金額として一平方メートル当り一万円という右土地の時価の約三分の一以下である金一億三一一三万円の金員の提供を受ける旨の違法な協議契約をなし、同年五月三一日にその納入を受けた。

横須賀市は右被告らの違法行為により右土地の時価との差額金三億〇一五九万九〇〇〇円の損害を受けた。

5  原告らは横須賀市の住民であるが昭和四七年一二月一五日これを知り、被告らの行為を違法不当として昭和四八年七月六日横須賀市監査委員に対し監査請求をなし、同年七月三〇日付で監査請求は理由がない旨の監査結果の通知を受けた。

6  ところで、右被告らの行為は地方自治法第二四二条、第二四二条の二所定の「違法な財産の処分」、「違法な契約の締結」「違法に公金の賦課・徴収・財産の管理を怠る事実」に該当するから横須賀市に代位して被告らに対し、右違法行為により横須賀市が被つた損害の賠償を求める。

というにある。

二  ところで、地方自治法第二四二条の二第一項に基づき、いわゆる住民訴訟を提起するには、適法な監査請求を経ていることを要する(監査請求前置主義)こというまでもない。

そこで本件住民の代位による損害賠償請求の前提となる「違法な財産の処分」「違法な契約の締結」につき監査請求が適法になされたかどうかについて検討する。

1  被告横山は、被告横山についての監査請求はなされていない旨主張し、原告らの本件に関する監査請求書(成立に争いのない乙第一五号証)によると、原告らが監査請求をしたのは当時の横須賀市長であつた被告長野の行為に関してであつて、被告横山の行為については触れられていないことが認められる。しかしながら、監査請求補充説明書(成立に争いのない甲第四六号証)、成立に争いのない乙第一三号証の一ないし三及び原告堀池満本人尋問の結果によると、原告らは本件監査請求において被告長野の責任を追求すると同時に被告横山についても実質的責任者としてその責任を追求し、本件監査手続においても被告横山につき同時に監査されたことが窺われるから、監査請求書に被告横山の氏名が明示されていないことの一事をもつて被告横山については監査請求がなかつたものと断定するのは難しい。むしろ被告横山の行為についても監査請求はなされたと解するのが相当である。

2  「怠る事実」についての監査請求については、後述することとし、地方自治法第二四二条第二項は監査請求は「当該行為のあつた日又は終つた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」と明定しているところ、成立に争いのない甲第三号証並びに弁論の全趣旨によると、原告らの主張する違法な財産の処分、または違法な契約の締結の日は昭和四七年四月三日であり、違法な財産の処分の終つた日は同年五月三一日であることが認められ、原告らが、右行為について「違法若しくは不当な財産の処分」に該当するとして監査請求をした日は昭和四八年七月六日である(この点は当事者間に争いがない。)から、原告らの監査請求は、右地方自治法第二四二条第二項の監査請求期間を経過した後になされたことが明らかである。

しかして、右監査請求期間内に監査請求をなし得なかつたことについて正当な理由があることについては何らの主張も立証もない。かえつて原告らの主張によれば、原告らは遅くとも昭和四七年一二月一五日までには右財産の処分ないし契約の締結に該る行為があつたことを知つた旨自陳しているところであるから、当該行為のあつた日、または当該行為の終つた日から一年を経過した日である昭和四八年四月二日または同年五月三〇日までに監査請求をなしえたことが認められ、法定期間内に監査請求をしなかつたことにつき正当の理由がなかつたことが認められる。

3  原告らは右について、監査請求期間は、裁判所への出訴期間と異つて、その「正当理由」の解釈・判断は、行政機関である監査委員の権限事項に属するものであつて、監査委員が法定要件を具備し、正当な理由があると判断し、適法な監査請求としてこれを受理した以上、監査請求前置主義の要件を具備している旨主張する。

しかしながら、同法第二四二条の二第一項は、「普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において……次の各号に掲げる請求(訴訟提起)をすることができる。」と規定しているところ、「前条第一項の規定による請求をした場合」とは、同条の定める適法な監査請求をした場合をいうのであつて、右規定は適法な監査請求を経て、はじめて住民訴訟が提起できることを定めたものであること疑いの余地がない。換言すれば、監査請求期間を遵守した適法な監査請求を経由していることが、住民訴訟の訴訟要件であるというべきである。

このことは、とかく行政庁の恣意に流れる傾向のあつた旧訴願法第八条第三項の宥恕の制度を改め、正当な理由がある場合に限ることにより、その救済を可及的に画一化せんとする法意に出たものであるから、前説示のとおり正当な理由がないのに監査請求期間を徒過した原告らの不適法な監査請求について監査委員が実質的な判断を下したからといつて、本来審議すべからざることについて審議したまでのことで、右審議は違法な措置というべく、このことによつて不適法な監査請求が適法となるわけではない。

そうすると、違法な財産の処分、違法な契約の締結を前提として、該行為により横須賀市に損害を被らせたとして被告らに損害賠償を請求する本訴訟は監査請求を経ていない不適法な訴として却下を免れない。

三  次に原告らは、右行為は「公金の賦課・徴収及び財産の管理を怠る事実」に該当すると主張するところ、怠る事実については、監査請求期間の制限を受けないと解せられるので、以下、原告ら主張の被告らの行為が「公金の賦課・徴収及び財産の管理を怠る事実」に該当するか否かについて検討することとするが、これに先立ち、右行為が、そもそも「公金の賦課・徴収及び財産の管理」といえるかどうかについて考えてみる。

1  「公金の賦課」とは国又は公共団体が公租、公課を公権をもつて特定人に対し負担させるべき金額を決定し、その者の債務として課する行為であり、「公金の徴収」とはその課せられた金額を現実に納付させる行為であるから、公金の賦課・徴収ともに公権をもつて一方的に特定人に対し債務を負担させ納付させることである。

そして公金の賦課・徴収は、賦課・徴収される特定人の財産権を制限するものであるから法律又は条例により明確に規定されることが必要である(憲法第二九条、第三〇条、第八四条、地方自治法第一四条第二項、第二四四条第二項)。ところで、原告らは、指導基準第八条により西武鉄道に対し金銭の賦課・徴収ができる旨主張するが、成立に争いのない甲第二号証、被告横山和夫本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によるも、右指導基準は特定人の財産権を制限しうるような法律や条例に根拠をおく法規とは解せられず、右指導基準第一条の目的に規定するとおり「……最近の宅地需要の増大から民間住宅地造成事業は激増の傾向にあり、ややもするとその開発は無秩序に行なわれ、また、これに伴う市の公共施設の整備もこれに即応し得ない現状にある」ため、「ここにおいて、住宅地造成事業者に対し、自らの責任分野においてなすべき必要な事業施行の基準と公共施設に対する負担区分を定め、これの履行を強力に指導しようとするものである。」というのであるから、その本質は、行政指導の基準であつて、それに従うかどうかは相手方の任意であり、相手方はそれに従うこともできるし、それに従わないこともできるのである。したがつて指導基準に基づいて一方的に相手方に債務を負担させて、これを納付させることはできないのであつて、公権をもつてすることのできる公金の賦課・徴収に該らないことが明らかである。

(なお、指導基準が開発業者など対外者を一方的に拘束する法的拘束力のないことは、原告らも認めるところである。)

2  さらに「財産の管理」に該るか否かを考えてみるに、地方自治法にいう「財産」とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう(同法第二三七条)のであり、横須賀市と西武鉄道との覚書による契約並びに指導基準により西武鉄道から学校用地を提供させるという原告ら主張のいわゆる一種の権利が、右公有財産、物品及び基金に該当しないことは明らかであるから、債権に該るか否かのみが問題であるが、債権とは、「他人をして将来財貨又は労務を給付させることを目的とする権利」であり、その本質は「特定の人をして特定の行為をなさしめる権利」であるから、債権の目的は、債権成立の時に具体的に確定する必要はないとしても、履行期までに確定しうるだけの標準が定まつていなければならないところ、横須賀市長と西武鉄道との昭和三八年一一月一九日の覚書による約定は、成立に争いのない甲第一号証並びに弁論の全趣旨によると「埋立地の造成により、将来、児童生徒の増加を来たした場合、西武鉄道は学校施設について横須賀市長に協力すること。」というものであつて、これだけの約定では債権の目的を確定しうるだけの標準さえも定まつているとはいえないから未だ債権として成立しているとはいい難い。原告らは、昭和四四年五月一五日施行の指導基準により、債権の目的が確定したと主張するようであるが、昭和三八年一一月一九日に横須賀市と西武鉄道との間で取交わされた馬堀海岸埋立に関する覚書と関係なく右指導基準は都市計画法の改正にともない民間住宅地造成事業者の乱開発を防ぐとともに公共施設の設置に協力させる行政指導の基準であつて、それが相手方である宅地造成事業者に債務を負担させうるものでないこと前段説示のとおりであるから、昭和三八年一一月一九日の覚書に基づく約定の内容を右指導基準によつて当然に補充し、債権として具体的に確定させうるものでないことも多言を要しないところである。

そうすると、原告らが主張する西武鉄道から学校用地を提供させるといういわゆる一種の権利なるものは債権にも該らないことが明らかである。

従つて被告らの右行為に財産ないし財産の管理の観念をさしはさむ余地はないというべきである。

3  以上によれば、被告らの行為は公金の賦課・徴収・財産の管理のいずれにも該らないものであるから、被告らがそれらを怠つているか否かを判断するまでもなく、そもそも住民訴訟の対象となし得ないものを、その対象としようとしているものであつて、原告らの本件訴は不適法として却下を免れない。

四1  なお、前掲乙第一五号証、甲第四六号証の監査請求書の記載によれば、原告らが、被告らの行為が、公金の賦課・徴収及び財産の管理を怠る事実に該当する旨の監査請求をなしたとは認められないから、本訴における該主張については、監査請求を経ていないものというべく、この点からも不適法のそしりを免れない。

2  もつとも、ある者が違法行為により地方公共団体に対し損害を被らせ、該地方公共団体に対し損害賠償義務を負うような場合に、該地方公共団体がその請求をすることを怠つているから損害賠償請求等適当な措置を求めるというような場合には、地方自治法第二四二条第一項所定の不当又は違法に財産の管理を怠る事実を改めるために当該地方公共団体の代表者である長に対し必要な措置を講ずべきことを求めているというべきであるから、かような場合には怠る事実に係る請求については同条第二項の適用はないと解される(最判昭和五二年(行ツ)第八四号、昭和五三年六月二三日参照)ことがあるが、前掲乙第一五号証、甲第四六号証によると、本件監査請求は、「被告長野が学校用地を確保することなく昭和四七年四月三日学校用地の協力費の名目で一平方メートル当り一万円という低額な割合で一億三〇〇〇万円の金銭提供を受けた行為につき、地方自治法第二四二条第一項の「違法若しくは不当な財産の処分」に該当するので、当該違法不当な財産処分行為を是正するため必要な措置を講ずることを求める。」というものであつて、横須賀市が被告らに対する損害賠償の請求を怠つているので横須賀市に対しこれを是正する適当な措置を求める旨請求しているものとは到底解せられない。

五  なお、付言するに、被告らの行為が「公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理」に該当しないこと前述のとおりであり、また、横須賀市の西武鉄道との覚書による契約並びに指導基準により西武鉄道から学校用地を提供させるという原告らのいわゆる一種の権利が地方自治法にいう「財産」に該らないことは前述のとおりであるから、横須賀市と西武鉄道との間の前記協議による契約が財産の処分に該らないことはいうまでもない。

さらに、被告らの行為が、「契約の締結」に該当するとしても、横須賀市と西武鉄道との間になされた契約は、横須賀市の行政指導に従い西武鉄道が一方的に財産を提供したいわゆる寄附ないしは贈与であると解せられるから、横須賀市に損害を与えるものではない。

従つて、被告らの行為をどのように検討してみても、住民訴訟として原告らが横須賀市に代位して請求しうる損害賠償の問題を生ずる余地はない。

六  よつて、本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川正澄 三宅純一 清水節)

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